自動車部品をはじめ多くの製品加工に用いられるレーザ溶接。溶接は製品強度に大きくかかわる重要な工程です。製品に強度不足があれば、その補強コストが発生したり上市後のリコール要因になったりします。今回は、レーザ溶接の強度不足について説明し、強度不足になる主な原因や対策方法を解説します。
レーザ溶接の強度不足とは
レーザ溶接は溶込みが深く入るため、一定の強度が確保できる溶接手法です。レーザー溶接を適切におこなえば、溶融・凝固した合金部分が破断することは基本的にありません。重ね継手の引張試験においては、溶接ビードの長さや幅が十分にあれば、継手強度が母材強度に到達することも確認されています。
ただし、レーザ溶接に何らかの問題があると継手強度が母材強度より低下するため、R部の破断もしくは接合面のせん断破断が発生します。何らかの問題、すなわち溶接欠陥や溶接不良がある場合に、レーザ溶接の強度不足が起こりうるということです。
強度不足になる主な原因
レーザ溶接の強度不足を引き起こす主な原因として溶接欠陥が考えられます。しかし、溶接欠陥が溶接継手の静的強度に及ぼす直接的な影響は小さいといわれています。溶接欠陥は本当にレーザ溶接における強度不足の原因となるのでしょうか。
溶接欠陥は強度不足の原因になる?
「一般社団法人 日本溶接協会」は『一般に溶接金属の強度(σw)は母材の強度(σB)よりも高いため、平均深さと平均長さの積の総和と破断面積との比を欠陥率(αx)としたとき、【σw(1-αx)>σB】の条件を満たしていれば継手強度は低下しない』としています。同協会が示す「溶接継手の静的引張特性に及ぼす溶接欠陥率の影響」を調べた試験データによると、欠陥率が7%以下であれば引張強度は欠陥率に影響されません。
ただし、建築構造物のような板厚の溶接継手で欠陥率が大きくなる場合には、断面減少以上に継手強度が低下する可能性があります。また、欠陥率が大きくなるほど継手の伸びが減少しやすいことにも留意しなければなりません。継手の伸びが減少して延性が失われると、脆性的破壊が生じやすくなるからです。
したがって、レーザ溶接で強度不足になる主な原因は「欠陥率が大きい溶接欠陥」ということになります。強度不足を防ぐと同時に外観を損なわないためにも、溶接欠陥がなるべく発生しないようなレーザ溶接をおこなうのが重要です。
レーザ溶接で強度不足の原因になりうる溶接欠陥
欠陥率が大きければ、ブローホール(ポロシティ)やスラグ巻込み、アンダーカット、溶込み不足、割れなど、あらゆる溶接欠陥が強度不足の原因になりえます。ここでは、レーザ溶接の代表的な溶接欠陥であるブローホールや割れ、アンダーフィル、アンダーカットの強度不足について解説します。
ブローホール
レーザ溶接で重ね継手を溶接する際に、接合界面に油分やサビなどがあるとブローホールが発生します。ブローホールとは、溶接金属内に発生あるいは侵入したガスが凝固時に溶接金属内に残留する溶接欠陥のことです。溶接部表面で開口したブローホールはピットと呼ばれます。ブローホールやピットが多く発生すれば接合部の欠陥率が大きくなり、強度不足が懸念されます。
割れ
レーザ溶接では金属を高温で溶かして急激に冷やすため、溶融部の熱ひずみで割れが発生する場合があります。割れは溶接部の強度不足を引き起こしやすく、注意が必要な溶接欠陥です。割れには溶接直後に起こる「高温割れ」と溶接後2~3日以内に発生する「低温割れ」があり、割れの発生機構や発生場所が異なります。ほかにも「縦割れ」「止端割れ」「横割れ」「クレーター割れ」など、割れの発生場所や形状で細かく分類されます。
アンダーフィル
アンダーフィルとは溶接ビードの厚みが鋼板板厚より薄くなってしまうことです。ヒケともいいます。アンダーフィルは溶接部が破断するきっかけになりうる溶接欠陥です。自動車のボディに用いられるテーラード・ブランク材などにおいて、溶接ビードにアンダーフィルが生じると溶接継手の疲労強度は低下します。特に段差のある突合せ溶接継手の場合は強度低下が著しいです。
アンダーカット
溶接速度が速すぎることにより、ビード止端部の溶着金属量が不足して溝状にへこむ溶接欠陥がアンダーカットです。溶融池内のえぐれた部分が覆われる前に凝固してしまうとアンダーカットが起こります。へこみ部分が切り欠きになって、割れが発生するきっかけになります。
強度不足への一般的な対策方法
レーザ溶接で強度不足の対策をおこなうには、原因を特定して適切な防止策をとることが重要です。また、溶接内部の状態を知るために各種試験や品質検査をおこなって、強度が確保できているか確認する方法も大切でしょう。
溶接欠陥の原因を特定する
溶接欠陥は表面欠陥と内部欠陥に分けられます。表面欠陥は目視で確認でき、溶接欠陥の種類から原因をある程度特定することが可能です。表面欠陥の多くは溶接温度や溶接速度に原因があります。
例えばアンダーカットが発生しているなら、溶接速度が速すぎるのではないかと推測できます。また、表面にピットが見られるなら内部でもブローホールが発生している可能性があり、シールドガスを巻き込んでいないか、材料の表面に油分やサビが残っていないか、というように欠陥原因を特定しましょう。溶接欠陥によっては単に材料が適していないために強度不足が発生するケースもあるため、素材特性に対する知識も求められます。
溶接欠陥の防止策をとる
溶接欠陥の原因が特定できれば、適切な防止策をとることができます。防止策を間違えれば別の欠陥が発生したり、解決までに時間がかかったりするなど、不要なコストが生じてしまいます。
欠陥防止策はレーザ溶接の工程だけではありません。切断や曲げなど関連前工程に不備がないか管理することも大切です。溶接材料の適切な保管、使用機器の設備と点検なども溶接欠陥の防止につながります。
また、スキルや経験に応じて作業配置をすることや、溶接技能者やオペレータの教育と研修をおこなってスキルアップを図ることも重要です。測定装置を設置してデータを可視化し、加工条件の再現性を高めるのも有効な対策です。
母材や溶接材料、溶接方法などを新規に採用して加工する場合は、溶接欠陥が発生しやすくなります。いつもより念入りに管理や検査を実施して欠陥要因を減らしましょう。
製品の試験や検査をおこなう
溶接の品質検査方法は、基本的に「破壊検査」です。しかし、全数を破壊して検査することはできないため、現実的には抜き取り検査をおこなうことになります。切断したワークの断面観察や引張試験を実施する、封止溶接後の漏れ確認をリークディテクターでおこなう、といった方法があります。
溶接部の欠陥を調べる方法には「非破壊検査」もあります。非破壊検査は「放射線透過試験(RT)」「浸透探傷検査(PT」「磁粉探傷検査(MT)」「超音波探傷検査(UT)」の4種類です。
放射線透過試験:RT
放射線を照射して金属を透過させ、内部に溶接欠陥があると減衰された放射線がフィルムに現像される試験方法です。金属内のあらゆる欠陥を検知できます。
浸透探傷検査:PT
割れやピンホールなど、表面にある溶接欠陥を検知する方法です。毛管現象を利用して亀裂にしみ込ませた染料を現像し、欠陥がないか確認します。
・磁粉探傷検査:MT
磁石を用いて母材を磁化させ、周囲に散布した磁粉の様子から溶接欠陥の有無を検査します。ただし、磁化できる金属にしか使用できません。
・超音波探傷検査:UT
数十kHzの超音波を当て、内部の割れなどで反射したエコーを検知します。球状の欠陥は見つけにくいですが、厚みのあるワークや装置内部の検査も可能です。