レーザ溶接には非接触溶接が可能で、高品質な溶接継手が得られるなど優れた特徴がありますが、スパッタのような溶接不良も発生します。溶接加工後に皮スキやタガネで除去することはできますが、自動化やロボット化を進めていくならスパッタの発生自体を抑えることが必要です。今回は、レーザ溶接のスパッタに関する基本情報や主な発生原因を解説し、一般的な対策方法も紹介します。

レーザ溶接のスパッタとは

スパッタはレーザ溶接における溶接欠陥の1つです。溶接品質に影響を及ぼすため、スパッタが発生しないように対策をとることが求められます。ここでは、レーザ溶接に関する基本的な情報を解説します。

スパッタとは溶接時に飛び散って固まる粒

溶接作業をおこなうと、溶けた金属が周囲に飛散します。その飛散物が粒状に固まったものが「スパッタ」です。細かい金属の粒ですが、目視できるほどの大きさです。溶接棒や溶接ワイヤに含まれるケイ素やマンガンの酸化物からできるスラグ(カス)の粒も、スパッタの原因になります。

スパッタ飛散の様子

スパッタの問題点

スパッタがあると接合箇所の見た目が悪くなってしまうことが容易に想像できます。しかし、問題点はそれだけではありません。スパッタが発生した分だけ溶融部材が飛散するわけですから、接合部の肉厚が減って強度が低下します。レーザ溶接機の光学系部品にスパッタが付着してトラブルの原因にもなりえます。

また、スパッタが発生すれば後処理をする工程が必要です。スパッタの発生を抑えようとしてレーザ出力や溶接速度を落とせば、生産効率も下がるデメリットがあります。レーザ溶接において、スパッタは溶接作業者を悩ませる溶接不良の1つです。

スパッタが発生した場合、製品への付着だけでなくレーザ加工ヘッドの保護ガラスへの付着にも注意が必要です。汚れの付着とは違いガラスにめり込む形になるので、クリーニング等では対応できない事がほとんどです。

 

動画:スパッタ付着の様子

スパッタリングとの違い

スパッタに関連する用語として「スパッタリング」があります。何らかのきっかけによって飛散物が発生するという原理はスパッタと似ていますが、スパッタリングはその原理を有効に利用する薄膜形成技術のことです。

スパッタリングでは、真空中でスパッタリングターゲットにアルゴンイオン(Ar)を衝突させて、放出した原子または分子をガラスやセラミックス、プラスチックの基盤上に付着させます。金属や誘電体、DLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)などによるコーティングが可能です。

レーザ溶接でスパッタが発生する主な原因

レーザ溶接のスパッタを抑えるには、発生原因を把握しておかなければなりません。溶融金属が飛散しやすくなる要因として、溶接温度と溶接速度が挙げられます。ここでは、レーザ溶接でスパッタが起こる主な原因を説明します。

溶接温度が高すぎる

レーザ溶接時に接合部分の温度が高すぎると溶融金属が飛散しやすくなります。レーザ溶接では母材に対して垂直にキーホール(レーザ光によってできる穴)が貫通し、キーホールの溶接進行方向側から金属蒸気が出ます。過度に熱せられて金属蒸気が急激に発生すると、キーホールの後方に溜まっている溶融金属がしぶきを上げるように飛び散る現象が起きるわけです。融点が低い母材にレーザ溶接をおこなうときは、レーザ出力が高すぎないか特に注意する必要があります。

溶接速度が速すぎる

スパッタはレーザ溶接ビードのアンダーフィルと密接な関係があります。アンダーフィルとは溶接ビードの厚みが母材の板厚に比べて薄くなり、継手が強度不足になる溶接欠陥です。溶融金属が飛散してスパッタになってしまう分、厚みが失われてアンダーフィルが発生します。レーザ溶接においては、溶接速度が速い場合にアンダーフィルが起きやすいことがわかっています。

大阪大学接合科学研究所がおこなったSUS304ステンレス鋼板をレーザ出力6kWで溶接する試験では、溶接速度150mm/s以上でアンダーフィルの発生とともにスパッタの付着が見られました。逆に低速度ではポロシティ(ブローホールやピット)が発生するため、欠陥が出ないように適切な溶接速度を検討することが重要です。

スパッタへの一般的な対策方法

レーザ溶接のスパッタは適切な対策をとることで発生を防げます。また、発生したとしてもワークや機器への影響を最小限に抑える対策が可能です。以下、レーザ溶接におけるスパッタへの一般的な対策方法を紹介します。

レーザ出力を調整する

レーザーパワーが大きい場合に、十分な溶融池が形成されないままキーホールが急速にできてしまうとスパッタが発生しやすくなります。したがって、レーザ出力を徐々に増加させることがスパッタ低減に有効です。

あるいは加工に必要なピークパワーを下げてパルス幅を長くしたり、デルタ波形で熱バランスを調整したりするなど、溶融金属の飛散が発生しないようにレーザ光の最適化をおこないます。

パルスレーザ溶接では、矩形波パルスによってキーホールが急速に形成されて溶融金属が飛散しやすくなる点にも留意しなければなりません。パルス波形を制御することでスパッタを抑止し、キーホールの崩壊にともなうポロシティの発生も防げます。

デフォーカスをおこなう

デフォーカスとはレーザ光の焦点をずらし、複数の評価面における性能を評価することです。ビーム径を拡大して溶融池を広げ、湯流れ速度を減衰させてスパッタの発生を抑えることができます。しかし、デフォーカスをおこなうとワーク上の熱影響を受ける部分が広がったり、照射位置の高さ方向に裕度がなくなったりすることに注意が必要です。

溶接速度を落とす

レーザ溶接では、比較的面積が狭くて急激に深くなるような形状の溶融池ができるため、逃げ場のない金属蒸気が突沸を起こし溶融金属を飛散させます。溶接速度を落として溶融池を広げれば、スパッタの発生を抑えることが可能です。

ただし、溶接速度を落とせば加工サイクルも鈍化し、生産効率が低下するというマイナス面もあります。スパッタ抑制のメリットとサイクルスピード低下のデメリットを比較して、溶接速度を調整することが重要です。

レーザ照射角を変更する

レーザ照射角を前進角にするとスパッタの発生量を抑制できます。前進角が5°未満あるいは50°を超えている場合にはスパッタ抑制の効果が得られないため、15°から45°の範囲で設定することが望ましいです。また、溶接線方向に後行ビームを配置するときは、その前進角を先行ビームより小さくします。

アシストガスで対応する

レーザ溶接では主に溶接部周辺の酸化防止を目的としてアシストガスを使用します。酸化を防ぐと同時に、アシストガスで溶融金属の飛散を抑制する効果も期待できます。スパッタや金属蒸気から加工レンズを守るのにも有効です。

アシストガスの量を増やせばスパッタの抑制やレンズの保護が可能ですが、強く吹き付け過ぎると酸化を招いたりブローホールを発生させたりする場合もあります。ランニングコストも上昇するため、適切なアシストガスの量を検討することが大切です。

長焦点の光学系を採用する

材料や条件によってはスパッタの抑制が難しいケースがあるかもしれません。ワークに付着したスパッタを後処理するのはやむを得ないとしても、レーザ溶接機の加工レンズや保護ガラスへの付着は避けねばなりません。集光光学系へのスパッタ付着は溶接加工を不安定にし、レンズの破損原因ともなりえます。

対策としては、長焦点の光学系を採用して溶接箇所から遠ざけ、スパッタの付着を防止する方法があります。長焦点の光学系を採用するのが難しい場合には、加工ヘッドを傾けてスパッタの付着を抑制するのも対策方法の1つです。