レーザ溶接は多くの産業分野で普及が進む優れた溶接方法です。レーザ溶接の自動化やロボット化へ移行する工場が増えてきましたが、現場では溶接欠陥や溶接不良をなくすために原因の特定と対策に日々取り組んでいます。今回は、レーザ溶接における溶接欠陥・溶接不良の種類を紹介し、強度不足の原因になることを踏まえた上で、発生原因や対策方法について解説します。

レーザ溶接の溶接欠陥や溶接不良とは

レーザ溶接は、アーク溶接などと同じく「融接」に分類される溶接方法です。融接にはブローホールや割れ、アンダーカットなどの溶接欠陥や溶接不良があります。ここでは、レーザ溶接の溶接欠陥・溶接不良の種類を紹介し、これらの欠陥や不良が強度不足の原因になることを解説します。

溶接欠陥や溶接不良の種類

レーザ溶接で発生する溶接欠陥・溶接不良の代表的なものは以下のとおりです。

ブローホール(blowhole)

「ブローホール」は溶着金属中に生じる空洞あるいは気孔で、溶接部にガスが閉じ込められることで発生する溶接欠陥です。溶接表面にできた穴は「ピット」と呼ばれます。ブローホールやピットのような気孔による欠陥を、まとめて「ポロシティ」ということもあります。ブローホールは気密性・油密性を低下させるため、製品用途によっては発生を防がなければなりません。また、ピットの発生は表面の美観を損ねるだけでなく、疲れ強さや腐食疲れなどに悪影響があります。

スパッタ

「スパッタ」とは溶けた金属が周囲に飛散して粒状に固まったものです。接合箇所の外観を損なうと同時に、溶融金属の量が不足して強度が低下します。接合箇所以外やレーザ溶接機にスパッタが付着すれば別のトラブルも発生します。スパッタを後処理で解決することもできますが、工程が増えて生産効率を下げてしまうのが問題です。

溶け込み不良

「溶け込み不良」とは、設計上の目的とする位置や深さまで溶け込みが至っていない溶接不良のことです。隅肉溶接においてルート部が溶融できていない場合も溶け込み不良ということがあります。溶け込み不良は静的強さや疲れ強さ、構造物の延性など、継手強度に関する要素への影響が大きい欠陥です。耐圧性や耐腐食性も低下するため、厳しい環境下では長期的な品質維持が難しくなります。

アンダーカット

「アンダーカット」は、溶着金属が満たされないまま溶接の止端付近の母材に生じた溝です。溶接ビード側面が溶接母材の表面よりもへこんでいるため、継手強度が低下してしまいます。アンダーカットの切り欠き形状には応力集中が起こりやすく、割れ(クラック)の原因になるためです。アンダーカットが深くなるほど割れの発生が顕著になります。

溶け落ち

「溶け落ち」とは、突合せ継手などの溶接で溶融金属が開先の反対側に溶け落ちてしまうことです。溶け落ちた溶融金属を指すこともあります。レーザ溶接ではI形開先の突合せ溶接がよくおこなわれるため、溶接条件によっては溶け落ちが発生しやすくなります。

溶融金属量を不足させる溶け落ちは、板厚より溶接ビードが薄くなる「アンダーフィル」の原因の1つです。溶接ビードが薄くなってしまうと結果的に破断や割れを引き起こします。また、溶融金属が溶け落ちて隙間が大きくなり、接合自体ができないこともあります。

割れ(クラック)

「割れ」は強度を著しく低下させる溶接欠陥です。レーザ溶接の特性上、金属への急熱急冷が起こるため、熱ひずみによる「熱影響部(HAZ)割れ」が発生することがあります。割れが起こりにくい金属を選べばある程度は回避可能です。ただし、アンダーカットやアンダーフィルといった他の溶接欠陥が割れを引き起こす場合もあるので、原因をしっかり特定することが重要になります。

溶接欠陥・溶接不良は強度不足の原因

「一般社団法人 日本溶接協会」の試験データでは、欠陥率7%以下なら溶接継手の強度や延性にさほど影響がないとされています。しかし逆にいえば、欠陥率が7%を超えると強度に影響を与える可能性が高まるということです。前項で紹介した溶接欠陥・溶接不良のいずれも強度不足を引き起こす原因になります。

レーザ溶接で強度不足を起こさないようにするためには、「溶接欠陥の原因特定」と「適切な対策方法の実施」が必要です。また、目視確認できない溶接欠陥を調べるための「溶接品質の検査」も欠かせません。

欠陥率:平均深さと平均長さの積の総和と破断面積との比)

溶接欠陥の原因特定

溶接欠陥には表面欠陥と内部欠陥があります。表面欠陥の発生は目視で確認でき、その多くは溶接温度や溶接速度が適切でないことが原因です。内部欠陥は見た目ではわからないため、破壊検査などで確認するしかありません。どのような溶接欠陥・溶接不良が起きているかが把握できたら、発生原因を特定して対策をとりましょう。

適切な対策方法の実施

レーザ光の調整や開先加工の精度改善、材料の管理方法の見直し、設備点検など、溶接欠陥によって適切な対策方法は異なります。単に作業者のスキルが不足しているだけかもしれません。よく検討しないまま闇雲に改善しようとしても、新たな欠陥が発生したり解決までに時間がかかったりして、不要なコストがかさんでしまうでしょう。

溶接品質の検査

溶接品質を調べるときは抜き取りによる破壊検査が基本です。破壊検査ではワークの断面観察、引張試験などをおこないます。非破壊検査には4種類あり、「放射線透過試験(RT)」や「浸透探傷検査(PT」、「磁粉探傷検査(MT)」、「超音波探傷検査(UT)」です。どの溶接欠陥を検知したいかで適切な検査方法を選択します。

溶接欠陥・溶接不良ごとの原因と対策

ここでは、レーザ溶接における代表的な溶接欠陥・溶接不良の原因と対策を解説します。

ブローホール

発生原因

ブローホールの原因は、溶融金属内にガスの発生・侵入が起こることです。

ガスの発生は、溶接継手部の開先面や溶接ワイヤ表面にサビや油分、粉塵、水分が付着していると起こりやすいです。レーザ溶接用フラックスに吸湿や異物混入があるときもガスが発生します。アルミ材は熱伝導率が高いことからレーザ溶接だと急冷凝固しやすいため、水素ガスの発生がブローホールを形成します。

ガスの侵入はシールドガスの乱れや流量不足が主な原因です。シールドガスの過不足により、溶融池に大気を巻き込んだり空気中の窒素が溶け込んだりしてブローホールが発生します。板材同士の隙間や不安定な入熱によるキーホール崩壊なども、ブローホールの原因になることがあります。

対策方法

ガスの発生源と取り除くために溶接材料の清掃や洗浄、乾燥をおこなうのが有効です。ガスの侵入を防ぐには、まずシールドガスの設定条件が最適であるかを確認します。ブローホールが発生しにくい「ウォブリング(ワブリング)」や「レーザ・アークハイブリッド溶接(HLAW)」を採用するのもよいでしょう。

スパッタ

発生原因

スパッタの発生は溶接温度と溶接速度に起因しています。

溶接温度が高すぎると溶融金属が飛散しやすくなって、スパッタを引き起こします。これは過度に熱せられた金属蒸気がキーホールから急激に上昇し、後方の溶融金属を飛び散らせるためです。また、レーザ溶接は狭くて深い溶融池を形成するため、突沸した金属蒸気に逃げ場がなくスパッタが起こりやすいです。溶接速度を落として溶融池の広さが確保できれば、突沸が起きても飛散しにくくなります。

対策方法

溶接温度が高い場合には、ピークパワーを下げたり熱バランスを調整したりしてレーザ出力を調整する対策が挙げられます。ビーム径の拡大や溶接速度の低下によって溶融池を広げるのも飛散抑制の効果が見込めるでしょう。レーザ照射角を前進角にしてみる、アシストガスの量を増やす、といった方法もあります。

溶け込み不良

発生原因

入熱不足で溶け込み深さが得られていない場合や、開先形状に問題がある場合などに溶け込み不良が発生します。

溶け込み深さが得られない原因はレーザ光の出力不足が考えられます。スパッタを防止しようとして出力を下げすぎてしまうケースなどです。溶接速度が速すぎることも溶け込み不良を引き起こします。また、レーザ溶接の溶融幅は非常に狭いため、開先形状が適切でないと照射位置がずれて溶け込み不良が発生する可能性があります。金属表面の汚れや油などの付着物も溶け込み不良の原因です。

対策方法

溶け込み不良の対策にあたって最優先することは、レーザ光の出力や溶接速度の調整です。出力を上げたり速度を遅くしたりすると入熱量が増え、容易に溶け込み深さが得られるためです。ほかには、開先状態を計測するセンサで開先誤差に対応したり、溶接前の部材洗浄を徹底したりするといった対策方法があります。

アンダーカット

発生原因

スパッタが発生して溶融金属が減少したときや、溶接速度が速すぎるときにアンダーカットが起こりやすいです。

溶接止端へ流れるはずだった溶融金属がスパッタになってしまうと、アンダーカットやアンダーフィルが発生しやすくなるのは自明であるといえます。よって、スパッタの原因を突き止めるのが先決です。溶接速度が速すぎることもスパッタ発生の要因ですが、溶融金属の凝固タイミングを早めて溶接ビードの端に溝を残すため、アンダーカットの直接的な原因にもなりえます。レーザ溶接でウィービングをおこなう際も、ウィービング幅が広いとアンダーカットになるケースがあります。

対策方法

スパッタが起きているなら、抑制するためにレーザ出力や照射角の調整、デフォーカスなどをおこないます。溶接速度を落とすことも有効です。フィラーワイヤを使用し、肉盛溶接をするのもアンダーカット対策になります。

溶け落ち

発生原因

溶け落ちはレーザ光の出力や溶接速度、ルートギャップ(隙間)などに原因があります。

レーザ光は高いエネルギー密度によってキーホールを形成しますが、出力が高すぎると板材を貫通し、溶け落ちが発生してしまいます。溶接速度が遅すぎる場合にも板材に穴が開いてしまって同様の状況が起こります。ルートギャップが大きい、あるいは溶融金属量が足りていない、といった状況で、溶接箇所の隙間を埋め切れないことも溶け落ちの原因です。

対策方法

まず、諸々の溶接条件や溶接方法を見直します。レーザ光の出力や溶接速度、ルートギャップなどです。溶融金属が不足する場合には、フィラーワイヤの使用を検討してみてください。横向き姿勢での溶接方法を採用すれば、重力の影響が少なくなって溶け落ちにくくなります。エンドタブや裏当てを使うのも抑制効果が高いでしょう。レーザ・アークハイブリッド溶接やウォブリング溶接も溶け落ちを防ぐのに有効な対策です。