レーザ溶接は照射部のパワー密度が非常に高く、深い溶け込みを得やすい溶接方法です。しかし、条件しだいではレーザ溶接においても溶け込み不良が発生します。溶け込み不良は継手の強度不足を招き、耐圧や耐腐食の面でマイナスに作用するリスクがあります。今回はレーザ溶接の溶け込み不良に関する基本情報を説明し、溶け込み不良が発生する原因や一般的な対策方法を解説します。

レーザ溶接の溶け込み不良とは

溶け込み不良は溶接継手の強度に影響する溶接欠陥の1つです。表面からは確認できない内部欠陥であり、幾何学的側面からは平面的欠陥とみなすことができます。ここでは、溶け込み不良の定義や問題点、融合不良との違いについて解説します。

溶け込み不良の定義

溶け込み不良とは、JISの定義によれば「設計溶込みに比べ実溶込みが不足していること」とされ、設計上の目的とする位置や深さに対して実際の溶け込みが不十分であることを意味します。溶け込みが完全になされているはずの溶接箇所で、溶け込んでいない部分が存在している状態です。また、隅肉溶接(T型に直交する2つの接合面に三角形の溶接金属を形成させる溶接)でルート部が溶融されていない欠陥も溶け込み不良に含まれます。

溶け込み不良の問題点

溶け込み不良は割れや融合不良と同様の平面的欠陥ですが、ブローホールなどの立体的欠陥よりも疲労強度への影響が大きくなり、継手強度を大きく低下させます。静的強さや疲れ強さ、構造物の延性などに影響し、脆性破壊が起こる要因にもなりえます。また、過酷な条件下で長期間にわたって製品の品質を維持しなければならない場合にも、溶け込み不良を避けなければなりません。耐圧や耐腐食といった性能面が低下し、金属疲労や応力腐食割れ、腐食疲れなどが発生しやすくなるためです。

融合不良との違い

溶接不良と似た溶接欠陥に融合不良があります。JISにおける融合不良の定義は「溶接境界面が互いに十分溶け合っていないこと」です。接合箇所の金属の溶融に問題があり、「母材と溶着金属」もしくは「重なった溶着金属同士」に隙間が生じている状態を意味します。融合不良は、多層溶接の母材接合部分や振り分け溶接ビード重ね部分に多く発生します。

レーザ溶接で溶け込み不良が起こる主な原因

レーザ溶接における溶け込み不良の原因はいくつか考えられます。最適な対策を講じるためにも、溶け込み不良を引き起こしている要因を特定することが重要です。ここでは、レーザ溶接で溶け込み不良が起こる主な原因を紹介します。

溶け込み深さが浅い

溶け込み不良の原因の1つに入熱不足があります。レーザ光の出力が足りずに金属溶融が不十分になっているケースです。結果的に溶け込み深さが浅くなり、溶け込み不良を引き起こします。スパッタを防止する目的で出力を下げた場合などは特に、入熱不足になっていないかを確認する必要があります。

また、溶融池が先行することや溶接速度が速すぎることも溶け込み深さが足りなくなる原因です。溶け込みが十分になされるよう、溶接条件や施工条件を調整します。

開先形状が適切でない

レーザ溶接の溶融幅は非常に狭く、ミリ単位の精度が求められます。レーザ照射位置が1mmでもずれてしまうと溶け込み不良が発生する可能性があります。アーク溶接では「開先角度を大きくする」「ルート間隔を広げる」といった対策をとりますが、アーク溶接と同様の開先形状ではレーザ溶接の特徴が生かせない点に注意しなければなりません。例えばV字型の開先よりも、密着した形の継手のほうがレーザ溶接に向いています。

金属表面に汚れがある

母材に油や異物などの汚れが付着した状態でレーザ溶接をおこなうと、溶接欠陥の原因になります。溶け込み不良や融合不良だけでなく、ブローホールや割れ(クラック)も発生させるため、金属表面の脱脂や洗浄をしておくことが重要です。溶接材料を乾燥させて適切な状態で保管管理し、溶け込み不良を防止します。

溶け込み不良への一般的な対策方法

溶け込み不良の原因を把握して適切な対策をとれば、溶接品質の向上につながります。ここでは、レーザ溶接で発生する溶け込み不良への一般的な対策方法を紹介します。

レーザ光の調整をする

レーザ溶接におけるスポット溶接では、特にレーザ光の出力が溶け込み深さに影響します。溶け込み不良が起こる場合には、出力を上げて溶け込みを深くすることが対策の1つです。レーザ光の出力を上げれば入熱不足が解消され、溶け込み不良の発生を抑えられます。

出力を上げる以外にも、焦点位置のデフォーカスやスポット径の調整をするといった対策もあります。溶け込み深さとレーザ吸収率に優れるファイバーレーザは、デフォーカス範囲が±5mm程度なら約90%以上の高い吸収率を維持します。

溶接速度を調整する

シーム溶接においては、レーザ光の出力だけでなく溶接速度(走査速度)も溶け込み深さに大きく関係します。一般に溶接速度を遅くすれば、溶け込みが深くなり、溶接幅も広くなります。ただし、溶接速度を遅くすると「加工サイクルに時間がかかる」「オーバラップ(溶接金属が母材に融合せずに重なった部分)が発生しやすくなる」といった弊害もあるため、適切な溶接速度に調整することが必要です。

適切な開先形状を選択する

十分な溶け込みを得るにはレーザ溶接に適した開先形状を選択しなければなりません。高エネルギー密度の熱源を用いるレーザ溶接は、両母材板を密着させた開先形状が適しています。一般的にはI形の開先が用いられ、1パスで溶接することが可能です。I形の開先は断面同士が平坦で容易に開先加工ができます。溶融体積が小さいため溶け込みビードが細く深くなり、変形・歪みを抑えられるのが利点です。原則としてギャップ0mmのI形開先を適用しますが、厚板の溶接加工は難しくなります。

開先状態を計測するセンサを利用する

開先の加工誤差や目違いが溶接の精度に影響し、溶け込み不良を発生させることがあります。また、大形構造物の場合は部材の加工や組立などの誤差が板継部に累積されていくため、開先のルートギャップを一定に保つことは非常に困難です。レーザ溶接を自動化して固定された条件で施工すると、溶着量の過不足が起こって溶け込み不良などの溶接欠陥が発生しやすくなります。

開先の誤差にかかわらず自動溶接の品質を保ちたいなら、開先状態を計測して溶接条件を制御するセンシング機能の導入が必要です。センサの種類には、事前センシングに用いる「ワイヤタッチセンサ」や「レーザ変位センサ」、溶接中のリアルタイムセンシングが可能な「アークセンサ」「視覚センサ」があります。

溶接部材の洗浄方法を検討する

溶け込み不良の防止には溶接前の部材洗浄が有効です。さまざまな溶接欠陥の発生を防ぎ、溶接時のヒュームや蒸散物を抑える効果も期待できます。例えばドライ洗浄方式は、省スペース・低コストで自動化も可能な洗浄方法です。洗浄設備を導入するなどして溶接部材をクリーンな状態で安定供給することが、溶け込み不良の対策になります。

金属部材の酸洗いも表面の洗浄に役立ちます。酸洗いによって皮膜形成を施すことで溶接作業時の熱垢やサビの飛散を防ぐことも可能です。酸洗いをおこなう場合は、金属に適した薬剤の使用や作業方法、条例が定める所定の届出、作業者の安全面についても十分に理解しておく必要があります。