ブローホールはレーザ溶接で起こりやすい溶接欠陥の1つです。ブローホールが多く発生した溶接継手は、強度が不足して破砕をする可能性があります。レーザ溶接のブローホールを抑えるには原因を把握して対策を講じることが必要です。今回はレーザ溶接のブローホールの基本情報を説明し、発生原因と対策方法を解説します。

レーザ溶接のブローホールとは

ブローホールは溶接欠陥の代表的なものですが、鋳造欠陥の一種を指す用語でもあります。一般に、加工された金属内に発生する空洞や気孔がブローホールであるととらえるとよいでしょう。ここでは、レーザ溶接におけるブローホールについて解説します。

ブローホールの定義

JIS規格 溶接用語によると、ブローホール(blowhole)は『溶着金属中に生じる球状又はほぼ球状の空洞。』と定義されています。ブローホールとは溶接欠陥の一種で、溶接部にガスが閉じ込められることで発生する空洞(気孔)のことです。ブローホールに関連する用語として「ピット」と「ポロシティ」があります。

ブローホールの問題点は以下の3つです。

1)ピットが発生すると外観をそこなう

2)気密性・油密性が低下する

3)強度と延性への影響が起こりうる

ブローホールが表面まで達してピットになっていると溶接部の外観をそこないます。また、高い気密性や油密性が求められる製品においてブローホールの発生は厳禁です。強度と延性に関しては、一般的に欠陥率(平均深さと平均長さの積の総和と破断面積との比)が7%を超えない範囲のブローホールなら影響がないといわれています。

ピットとは

ピット(pit)は溶接部にできる小さな穴やくぼみのことです。疲れ強さや腐食、応力腐食割れ、腐食疲れなど、溶接部の性能に影響が起こりえます。特に腐食環境では、ピットがある製品の信頼性は著しく低下します。

ポロシティとは

ポロシティは、ブローホールやピットの総称です。定義上は、溶接金属内のガスで生じた気孔はすべてポロシティとみなすことができます。しかし、溶接現場ではピットもブローホールと呼ぶケースが多く、ポロシティよりもブローホールのほうが総称的な用語として使われているようです。

ブローホールの主な原因

ブローホールは、溶接時の金属内に発生あるいは侵入したガスが、凝固時に放出されないまま溶接金属内に閉じ込められて起こる欠陥です。したがって、ブローホールの発生原因は主に「ガスが溶接金属内で発生する」「ガスが溶接金属内に侵入する」という2点に集約されます。ブローホールが発生したときは、ガスの発生源があるかどうか、シールド状態など溶接加工の方法や条件が適切かどうかを確認することで原因が特定できます。

ブローホールの原因となるガスの発生源

溶接継手部の開先面に付着している異物は、ガスの発生源になりえます。具体的には熱でガス化しやすいサビや油分のほか、粉塵、ガス切断時の酸化スケール、圧延スケールなどです。水分の付着もガスを発生させるため、溶接部は乾燥させておく必要があります。

レーザ溶接用フラックスを用いる場合は、フラックスの吸湿や異物混入がガスの発生要因です。フラックスはブローホールを抑えるために用いられますが、吸湿などで劣化していると逆にブローホール発生の原因になるため注意が必要です。また、シールドガスに吸湿や大気混入の異常があるときにも、溶接金属内に水分や窒素などを巻き込んでブローホールができてしまいます。

アルミ材にレーザ溶接をおこなう際は、水素ガスの発生に注意して作業をおこないます。熱伝導率が高いアルミニウムは急冷凝固しやすいため、酸化皮膜に含まれる結晶水や大気中の水分を巻き込むなど、溶融金属中に水素が残留する傾向があるためです。水素が残留するとブローホールが形成されます。

ブローホールの原因となるガスの侵入要因

発生しやすいガスの侵入要因は、シールドガスの乱れや流量不足です。溶融池がシールドガスで覆われていなければ、空気中の窒素が溶融している金属中に溶け込みます。結果として、金属が凝固する際に窒素が溶接金属内でブローホールやピットを作ってしまうのです。逆にシールドガスの流量が過剰な場合にも、気流が乱れて大気を巻き込む可能性があります。溶接部付近の気流の状態や、シールドガスの流量を確認する必要があります。

レーザ溶接では溶接する部品同士に隙間がある場合や、入熱が不安定でキーホールが崩壊してしまう場合にもブローホールが発生することに留意しなければなりません。

ブローホールの一般的な対策方法

ブローホールの対策方法は、ガスの発生源や侵入要因を排除することが基本です。以下、ガスの発生源と侵入要因をなくすための一般的な対策方法を説明します。

ガスの発生源への対策

レーザ溶接をおこなう前に溶接部の異物を取り除きます。溶接材料の清掃・清浄および乾燥などをおこない、ほこりや水分が残留しないようにします。脱脂や酸化皮膜の除去も重要な工程です。例えばアルミ材のレーザ溶接をおこなう前には、ワイヤーブラシで接合部の酸化皮膜を除去したり、アセトンで洗浄したりします。

ガスの侵入要因への対策

シールド不良と溶融池の乱れを防止し、シールドガスや大気を溶接金属内に巻き込まないようにすることが重要です。流量が不足しても過剰になってもブローホール発生の要因になります。シールドガスの設定条件が最適化されているか確認しましょう。

また、レーザ溶接は集光径が小さいため、密着精度を板厚の1/10程度の隙間になるよう調整することでブローホールの発生を抑えられます。亜鉛めっき鋼板の重ね溶接では「溶接前に被溶接部の亜鉛を除去する」「適当な隙間をつくって亜鉛蒸気を溶接部から逃がす」といった対策が可能です。

その他の対策

ウォブリング

ウォブリング(ワブリング)とは、ガルバノスキャナ等が搭載されている加工ヘッドを用いて、円や線などのウォブリングパターンを描きながらレーザ溶接をおこなう技術のことです。幅の広い溶接ビードを高速で形成することができます。同時に、溶融と凝固をコントロールして最適化できるため、溶接部に発生するガスを放出してブローホールの発生を抑えます。

レーザ・アークハイブリッド溶接

レーザ溶接には「重ね隙間の余裕が小さい」「亜鉛めっき鋼板の重ね溶接ではブローホールが発生する」といった弱点があります。これを解決するのがレーザ・アークハイブリッド溶接で、以下の特徴があります。

1)重ね溶接における隙間許容量を通常のレーザ溶接に比べて大幅に拡大できる

2)重ね継手のビード幅がレーザ溶接法より広いため,静的強度と疲労強度に優れる

3)亜鉛めっき鋼板の重ね溶接では、隙間を0mmにしてもブローホールが抑制できる

溶接継手の性質上、考えられる対策をおこなってもブローホールが防げないケースもあります。とはいえ、品質条件によってブローホールの発生を許容できることもあるでしょう。 ブローホールを完全になくしたい場合には、設計や材料の選択、溶接方法、材料管理などから見直す必要があるかもしれません。