レーザ溶接は製造業の各分野で広く利用されている溶接法です。自動化が可能で溶接速度も速いといった強みがありますが、隙間がある溶接では溶け落ちしやすいという弱点もあります。レーザ溶接の溶け落ちを解決するために苦慮している溶接技術者も多いことでしょう。今回は、レーザ溶接の溶け落ちの定義や問題点を踏まえ、溶け落ちの主な発生原因や一般的な対策方法について解説します。

レーザ溶接の溶け落ちとは

レーザ溶接では板材同士の隙間やレーザ光が貫通した穴から溶融金属が垂れてしまうことがあります。これが「溶け落ち」で、接合不良やアンダーフィルなどの問題が発生します。ここでは、レーザ溶接の溶け落ちについてよく理解するために、溶け落ちの定義や問題点を解説します。

溶け落ちの定義

溶け落ちは溶接欠陥の一種です。JIS規格の溶接用語では「溶融金属が開先の反対側に溶け落ちること」と定義されています。突合せ継手などの溶接において、溶融金属が開先の裏側へ溶け落ちてしまうこと、あるいは、その溶け落ちた溶融金属を指す言葉です。

レーザ溶接ではI形開先の突合せ溶接がよくおこなわれますが、母材の板厚が薄い場合や、アルミのように融点が低い金属の場合には、溶け落ちが発生しやすくなるため注意が必要です。

溶け落ちの問題点

溶け落ちが発生すると溶融金属の量が不足してアンダーフィルにつながります。アンダーフィルとは、溶接ビードの厚みが板厚よりも薄くなってしまうことです。応力集中が起こって破断や割れ(クラック)の原因になります。また、溶融金属が溶け落ちて隙間が大きくなることで、そもそも接合自体ができていないケースもあります。

レーザ溶接で溶け落ちが発生する主な原因

集光径が1mm以下の非常に細くて貫通しやすいレーザ光を熱源とする特性上、レーザ溶接は溶け落ちが比較的起こりやすい溶接方法といえます。さまざまな要因が考えられるため、何が原因になっているのか特定するのが難しいケースもあるでしょう。ここではレーザ溶接で溶け落ちが発生する主な原因について説明します。

レーザ光の出力が大きい

レーザ溶接に用いられるレーザ光はエネルギー密度が高く、金属表面にキーホールを形成します。キーホールは金属表面にできる深いくぼみです。この特性により、レーザ溶接は溶け込み深さを得やすい溶接方法といえます。

しかし、レーザ光の出力が大きすぎると板材を貫通して溶け落ちが発生します。特に入熱量がシビアになる薄板や融点が低い板材の場合は、適切な出力に設定することが必要です。

溶接速度が遅い

レーザ溶接は溶け込みが深いため、溶接速度が遅いと穴が開いて溶け落ちが発生しやすくなります。溶け落ち原因の多くは、溶接時の入熱量が大きくて溶接速度が遅いことです。逆に入熱量が不足していて溶接速度が速いときには溶け込み不良になります。

隙間が広い

溶接したい板材同士の隙間が広い、すなわちルートギャップが大きいと、溶融金属が重力に負けて接合部分に乗り切らず溶け落ちてしまいます。溶接の熟練者であれば広めの隙間でも対応できるかもしれませんが、ルートギャップを均一にしたり歪みを考慮した仮付けをおこなったりすることが大切です。

溶融金属が十分でない

隙間が広いことと関連しますが、溶融金属量が不足している場合にも隙間を埋めきれずに溶け落ちが起こります。溶融金属が十分に確保されるよう、入熱量や溶接速度を調整しなければなりません。

溶け落ちへの一般的な対策方法

レーザ溶接の溶け落ち対策として、いくつかの有効な方法が考案されています。溶け落ちも含めた種々の溶接欠陥を抑制できる溶接法として確立しているものもあります。ここでは、レーザ溶接の溶け落ちへの一般的な対策方法を紹介します。

溶接条件や方法を見直す

レーザ光の出力やスポット径、照射角、あるいは溶接速度などの条件を変更することで、溶け落ちの発生が抑えられます。接合部分の隙間が広くならないようにルートギャップを適正に管理することも重要です。溶融金属の不足が原因になっている場合には、フィラーワイヤを用いることで溶け落ちを防止できます。

横向き姿勢での溶接を検討する

溶け落ちに影響する大きな要因の1つが重力です。溶融した金属は液状となるため、下に支えるものがなければ重力に引かれて落下します。重力の影響を少なくするには横向き姿勢での溶接が有効です。

一例として、横向きでフィラーワイヤを送給しながらレーザ光の照射によってプラズマブルームを発生させ、その蒸発反力で溶融物を送り込み溶接をおこなう方法があります。ルートギャップがあっても高速かつ高効率のレーザ溶接が可能です。

エンドタブを用いる

突合せ溶接の溶け落ち対策としてはエンドタブの使用も考えられます。エンドタブは接合部分の両端に取り付ける補助板のことです。溶接の始端部や終端部には溶接欠陥・不良が発生しやすいため、エンドタブを設けて母材の外側に意図的な「余白」をつくります。

エンドタブには鋼製タブと固形タブがあります。鋼製タブはあらかじめ母材に溶接しておくことが必要です。突合せ溶接後に除去し、グラインダーで仕上げをおこないます。固形タブは専用治具によって取り付けるため溶接不要です。セラミック系またはフラックス系の固形タブが使われています。

裏当てをする

開先溶接で溶け落ちを防ぐには「裏当て」をするのも有効です。裏当てとは、開先の底部に裏から当てる金属板や粒状フラックスなどのことです。母材とともに溶接される金属板は「裏当て金」ともいいます。完全溶け込み溶接では裏当てを用いるのが一般的です。

裏当てのメリットは溶け落ち防止だけではありません。「施工性が良くなる」「溶接が片面だけ済む」といったねらいもあります。 溶接後に母材から除去する裏当てを「仮裏当て」、溶接後にも取り付けたままにする裏当てを「永久裏当て」と呼びます 。

レーザ溶接とアーク溶接の複合溶接をおこなう

通常のレーザ光は集光径が非常に小さく、突合せ継手の溶接で溶け落ちを防ぐには開先部分に高い寸法精度が要求されます。そこで、レーザ溶接に開先精度のギャップ管理に融通がきくアーク溶接を組み合わせる方法が開発されました。「ハイブリッド溶接」もしくは「レーザ・アークハイブリッド溶接(HLAW)」と呼ばれる溶接法です。

ハイブリッド溶接はテーラードブランク工法のような板厚や材料が異なる溶接に採用されています。板材の加工条件が複雑でも高速かつ効率的な溶接が可能なため、自動車業界で導入が進んでいます。

ワブリング溶接を採用する

ワブリング(ウォブリング)溶接とは、ガルバノスキャナ等が搭載されている加工ヘッドに円や線などのパターンを描かせることで、ビード幅を増大する溶接法です。溶け落ちの発生要因である隙間に強く、デフォーカスでスポット径を広げるよりも溶け落ちしにくくなります。

ワブリング溶接は溶接ビードを太くして接合強度を高めると同時に、ブローホールやスパッタ、割れなどの溶接欠陥を低減することが可能です。ただし、加工ヘッドに繰り返しパターン描写をさせるため溶接速度が落ちることと、ガルバノスキャナ等の追加設備にコストがかかることに留意する必要があります。