レーザ溶接のアンダーカットとは

レーザ溶接をおこなったときに溶接ビードの端に陥没した部分ができていたら、それが「アンダーカット」です。ここでは、アンダーカットの定義や問題点、許容値の考え方、アンダーフィルとの違いについて説明します。

アンダーカットの定義

アンダーカットは溶接欠陥の一種で、JISの溶接用語では「母材又は既溶接の上に溶接して生じた止端の溝」と定義されています。溶接の止端付近の母材が掘られて、溶着金属が満たされないまま溝ができてしまった部分です。

アンダーカットは溶接ビード側面が溶接母材の表面よりもへこんだ状態になっているため、継手部分の外観をそこなうと同時に強度の低下を引き起こします。特に膨張伸縮が繰り返される箇所や振動の多い箇所で発生しやすい欠陥です。

アンダーカットの問題点と許容値の考え方

アンダーカットは切り欠きの形状になっているため、クラックが発生するきっかけになります。横方向溶接部においてはアンダーカット部分に応力が集中しやすく、疲労強度への影響が大きいです。アンダーカットが深くなるほど鋭い形状になり、それだけ応力集中も高まると考えてよいでしょう。日本溶接協会が示す疲労試験結果から、アンダーカットがない(深さ0.0mm)試験片と深さ0.3mmの試験片を比較すると、破壊率95%における応力範囲に顕著な差が出ていることがわかります。

アンダーカットの深さと疲労強度の関係(横突合せ溶接継手)

試験片記号 A B C D
アンダーカットの深さ(mm) 0.0 0.3 0.6 0.9

疲労強度

(応力範囲)

(kgf/mm2

破壊確率 5% 11.0 13.2 11.3 6.4
破壊確率 50% 18.5 15.5 13.9 9.0
破壊確率 95% 30.5 18.5 17.1 12.3

©(社)日本溶接協会、2004

アンダーカットを完全になくすのは難しい場合もあるため、許容値を設定するケースがあります。その際は横方向接続部の許容値を厳しめにしておくべきです。例えば日本道路協会の道路橋示方書(鋼橋編)では、縦方向溶接部のアンダーカット許容値は0.5mmですが、横方向溶接部のアンダーカット許容値は0.3mmと厳しくなっています。

一方で、アンダーカットの深さは開口幅の半分程度しかないことから半円形にモデル化でき、疲労強度の低下は5%程度に過ぎないという試験結果も得られています。通常、アンダーカットの発生は局部的で、溶接止端全体に溝ができることも稀です。したがって、アンダーカットが引き起こす断面欠損は非常に小さいとも考えられます。アンダーカットが疲労強度に一定の影響を与えるのは確かですが、許容値をどのように設定するかは製品の特性や使用環境なども考慮して検討することが重要です。

アンダーフィルとの違い

アンダーフィルとは、溶接ビードの厚みが鋼板板厚に比べて薄くなることです。アンダーカットが溶接止端に発生するのに対し、アンダーフィルは溶接箇所の中央付近に起こります。突き合わせの隙間が大きい場合などに溶解不足となり、アンダーフィルが発生します。アンダーフィルは溶接ビードを凹ませて応力集中を引き起こすため、破断やクラックの原因になりうる溶接欠陥です。

アンダーカットが発生する主な原因

レーザ溶接をおこなう際に溶接止端まで溶融金属が達しない理由はいくつか考えられます。溶融金属の量が不足したり凝固が早まったりするとアンダーカットが発生しやすいです。以下、アンダーカットを引き起こす主な原因を解説します。

スパッタが発生している

スパッタとは溶融金属が飛散して周囲に付着する溶接欠陥のことです。スパッタが多量に発生すれば止端へ流れるはずだった溶融金属が減少するため、アンダーカットやアンダーフィルが発生しやすくなります。なぜスパッタが起きているかを突き止めれば、アンダーカットの発生原因を知ることにつながります。スパッタは溶接温度が高すぎる場合に生じる傾向があるため、レーザ光の出力が適切かどうか確認することが重要です。

溶接速度が速すぎる

溶接速度が速いと溶融金属が冷えるタイミングも早まります。溶融池内のえぐれた部分を覆うより早く溶融金属が凝固してしまうと、溶接ビードの端に溝が残ってアンダーカットを形成します。また、溶接速度が速すぎると表面張力のバランスが崩れることで溶融金属の湯流れ速度が一定にならず、不連続なこぶ状のハンピングビードが形成されます。アンダーカットは軽度のハンピング現象ともいえ、溶接速度が適切でないために露出面の一部が凝固壁となって残ることが発生原因です。

ウィービングの幅が大きすぎる

ウィービングはアーク溶接などで用いられ、溶接線に対してトーチを直角方向に動かしながら進めていく溶接法です。YAGレーザ溶接のビード幅の細さを改善するためにウィービングを採用することがあります。ビードが安定して接合後の外観もよく、焼け取りの手間もなくなるメリットがあります。ただし、ウィービングの幅が大きすぎると溶接止端まで溶融金属が行き届かず、アンダーカットになってしまうので注意が必要です。

アンダーカットの一般的な対策方法

アンダーカットはクラックの要因になるだけでなく、疲労強度にも影響が起こりうる溶接欠陥です。できるだけアンダーカットが発生しないように適切な対策をとる必要があります。ここでは、アンダーカットの一般的な対策方法を紹介します。

スパッタの発生を抑える

アンダーカットにつながるスパッタが発生しないようにするには、レーザ出力や照射角の調整が有効です。デフォーカスによって溶融池の面積を広げたり、アシストガスで対応したりする方法もあります。溶融金属の飛散が抑えられれば溶融金属量を減らさずにすみ、溶接止端まで行き届かせることが容易になります。

溶接速度を下げる

溶接速度を下げて凝固を遅らせ、溶融池のえぐれた部分を溶融金属が覆えるようにすればアンダーカットやハンピングビードの抑制が可能です。しかし、溶接速度が遅くなりすぎるとオーバーラップの発生要因になるため、適度な溶接速度を見極めることが大切です。

適切なウィービング幅を採用する

レーザ溶接でウィービングをおこなう際には、ウィービング条件を適正な範囲に抑えることがアンダーカットの防止策になります。接合する部材の特性や必要な溶け込み深さ、溶接速度などを考慮して適切なウィービング幅を決めます。 

フィラーワイヤを使って補充する

フィラーワイヤを用いて肉盛り溶接をおこない、アンダーカット対策をする方法もあります。アンダーフィルやスパッタを防止する方法としても有効です。ただし、使用するフィラーワイヤの成分によって溶接金属の特性が変化することには留意しておく必要があります。

ハンピングビードを防止する

ハンピングビードとアンダーカットの発生原因は共通しているため、ハンピングビードを防止することがアンダーカットの対策となりえます。具体的には、太いビーム径を用いたり、貫通溶接ビードを採用して表面への噴出を抑制したりするなどです。レーザ光の焦点位置を板材の内部に設定して、表面のビード幅を広げることも対策方法として考えられます。