金属を接合するために溶接をおこないます。レーザ溶接も数ある溶接方法の1つです。適切な溶接方法の選択は製品の仕上がりにもかかわるため、レーザ溶接について理解を深めておくことが重要です。この記事では、レーザ溶接の定義と原理をはじめ、レーザ溶接の特徴を生かした用途、メリットやデメリットを解説します。
レーザ溶接とは:定義と原理
レーザ(レーザー)とは「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation」の頭文字「LASER」の日本語読みです。「誘導放出による光の増幅」を意味します。レーザ溶接とは、このレーザを用いて金属を溶解させて接合する技術のことです。以下、レーザ溶接の定義や原理を説明します。
レーザ溶接の定義
レーザ溶接は、ワーク(金属素材)の溶接したい部分に人工的に作られたレーザ光を照射して溶かし、金属が凝固することによって接合させる方法です。溶接方法は大きく「融接」「圧接」「ろう接」の3つに分類できますが、レーザ溶接はそのうちの融接に含まれます。融接の中のビーム溶接技術の1つであるため「レーザビーム溶接」と呼ぶこともあります。特に精密さが要求される加工に適した溶接方法です。
レーザ溶接には「レーザ溶接機」を使用します。レーザ溶接機は「レーザ発振器」「光路」「レーザ集光部」「駆動部」「シールドガス系」から成っています。レーザ発振器から発せられたレーザ光が光路を通り、レーザ集光部の「集光レンズ」によって加工に適したサイズまで集光されワークを溶解します。通常、集光されるサイズはΦ1.0mm以下です。溶接部にシールドガス(アルゴンやヘリウムなど)を吹付けることで、酸化を防ぐとともにスパッタ(溶融金属の飛散)を軽減することが可能です。駆動部でワークを移動させ、溶接を進めていきます。
レーザ溶接の原理
レーザ溶接の原理は、誘導放出によって光のエネルギーが高められることにあります。基底状態(安定した状態)にある原子が外部から光エネルギーを受けると、原子内の電子が励起状態になり、やがて自然光を発して基底状態に戻ります。この自然放出光がほかの励起状態にある原子に入射すると、「誘導放出光」が発生して入射光と同じ方向へ光のエネルギーが増幅されていくという仕組みです。
レーザ発振器はこの原理を応用し、「全反射ミラー」と「一部透過ミラー」の2枚のミラーでレーザ媒体を挟むことで光を往復させ、一定方向の強い光へと増幅してレーザ光を生み出す装置になっています。さらに集光部で高エネルギーのレーザ光を収束し、ワークの溶接部を高温にして溶融するのがレーザ溶接の原理です。
レーザ溶接の特徴
レーザ溶接には次のような特徴があります。
局所的な溶接に向いている
レーザ溶接に使われるレーザ光は、アーク溶接のアークよりも非常に小さい接合面積まで絞り込むことが可能です。
異なる金属素材でも接合できる
レーザ光のエネルギーを集光レンズで高密度化することで、融点の異なる金属同士の溶接もできます。また、セラミックやプラスチックなどの異種材料とも接合させられます。
微細な溶接でも失敗しにくい
接合部分の周囲への熱影響が少ないため、ピード(溶接痕)を細くしたり加工反力を抑えたりすることができます。
溶接設備の小型化や自動化ができる
レーザ溶接機には真空チャンバーが不要なため、電子ビーム溶接機と比べると小型の設備です。また、コンピュータ制御により完全自動化して運用できます。
目的に応じて溶接方法が選べる
点状に接合する「スポット溶接」や、線状に接合する「シーム溶接」が可能です。スポット溶接ではキーホール(溶接部の空洞)を発生させる「キーホール型溶接」、シーム溶接ではキーホールを発生させずにスパッタを出さない「熱伝導型溶接」をおこないます。
レーザ溶接が使われるもの
レーザ溶接はコンピュータ制御やCAD/CAMと組み合わせた運用が主流です。ラインに組み込んだり、ロボット化をおこなったりする工場もあります。自動車のボディやフレームのような大きなワークの溶接加工から電子部品のワイヤやピンといった精密な溶接まで、幅広く活用することが可能です。
レーザ溶接が使われている製品
レーザ溶接はさまざまな分野の製品を生産するのに役立っています。
自動車部品 船舶部品 鉄道車両 航空機 ロケット・人工衛星・宇宙探査機 電気機器 精密機械 工作機械部品 建設機械 |
医療機器 食品機器 建築金物・建材 パチンコ部品 アクセサリー類 太陽電池 火力・水力・原子力発電 石油化学プラント 理化学プラント |
レーザ溶接の活用例
ここでは、レーザ溶接の具体的な活用例を紹介します。
自動車のボディやフレームの溶接
レーザ光によるスポット溶接をおこないます。母材の片側からレーザ光をあてて溶接できるため、抵抗スポット溶接のように母材を電極で挟む必要がありません。ロボットアームを自由に動かすことができ、複雑な箇所の溶接にも対応可能です。
ボディのシーム溶接では、高速パルスレーザや連続発振レーザを用います。シーム溶接によって補強用の鋼材なしに強度を保つことができ、ボディの軽量化にも寄与します。
電子部品のワイヤーやピンの溶接
カメラを取り付けて溶接箇所を確認しながら、コンピュータ制御による正確なスポット溶接がおこなえます。精密さが求められる電子部品のワイヤーやピンの溶接にも向いています。
電子デバイス用のセラミックパッケージの溶接
高信頼性と高気密性が要求される電子デバイスは、セラミックパッケージを施して金属の蓋で封止されます。電子デバイスの小型化が進むにつれ、従来の抵抗シーム溶接に代わって微細溶接が可能なレーザ溶接が採用されるようになりました。
電池ケースの封止溶接
携帯電話などのリチウムイオン電池は、電解液が容器の中に漏洩なく封止される必要があります。小型で薄い電池ケースへの溶接には高い気密性が求められることからアーク溶接では困難なため、レーザ溶接が用いられています。
レーザ溶接のメリット・デメリット
レーザ溶接にはアーク溶接や抵抗溶接などにないメリットが得られる技術ですが、デメリットがまったくないわけではありません。以下、レーザ溶接のメリットとデメリットを解説します。
レーザ溶接のメリット
レーザ溶接の主なメリットは次のとおりです。
精密な溶接を可能にしながら十分な強度も保てる
レーザ溶接では溶接ビードが細いため精密な溶接が可能です。その分、強度が不足するのではないかと心配になるかもしれません。レーザ光による溶込みが深く入っているため、ピードが細くても強度を確保できます。レーザ溶接によって作られた合金部分は破断にも強く、アーク溶接などより高い強度を実現できます。
薄板の溶接でも歪み(ひずみ)が少ない
レーザ溶接は、レーザ光を収束させて極めて狭い範囲に高いエネルギーを集められます。これによりワークへの溶込み幅を小さくでき、熱影響層も広がりにくいため熱歪みの発生を抑えられます。一方、アーク溶接は溶込みが浅く、熱影響層が広いために熱歪みが起こりやすいのです。また、レーザ溶接には「パルス発振」という方法もあります。溶融と凝固を1秒間に数回から数十回繰り返すことにより、歪みをさらに小さくすることができます。
仕上げ工数を減らせる
レーザ溶接は熱歪みを抑えられるため、アーク溶接などで必要な歪み取りの工数を省けます。基本的に母材溶接をおこなうレーザ溶接では、肉盛り部分の研磨も不要です。加工条件を整えて溶接焼けも抑えられれば、電解研磨の工程もいりません。こういった仕上げ工数を減らすことは生産性の向上や製造コストの削減にもつながります。
溶接条件を管理して再現できる
コンピュータ制御が可能なレーザ溶接機は、溶接条件を登録して管理できます。溶接加工をスピーディにおこなえるため、生産性を高められます。また、熟練技術者が作成した溶接条件を呼び出して再現すれば、非熟練者にもレーザ溶接を任せることも可能です。熟練者にはより難易度が高い工程を担当してもらうなど、人員配置の自由度も増します。
レーザ溶接のデメリット
レーザ溶接には以下のようなデメリットがあります。
十分な安全対策をとる必要がある
レーザ溶接では目に見えない強力なレーザ光を使用します。事故の発生を防ぐために「レーザ製品の安全基準(JIS C 6802)」が定められていますが、手溶接のレーザ装置は最も危険度が高い「クラス4」です。クラス4の危険評価では、高出力のレーザ光による皮膚障害や火災発生のリスクを指摘しています。
レーザ溶接機の各メーカーによって安全対策はなされていますが、「レーザ溶接専用の安全メガネを着用する」「レーザ管理区域を設定する」「反射作用のあるカバーで溶接工程を覆う」「安全装置付きのハンディトーチを使用する」「装置の鍵を適切に管理する」など、思わぬ事故が起こらないように多角的な安全対策が必要です。
隙間があると溶接できない
レーザ溶接はΦ1.0mm以下の範囲でワークを溶融させて接合する方法であるため、隙間があるとレーザ光が抜けてしまって溶接できません。切断加工や曲げ加工などレーザ溶接までの工程で高い精度を出しておく必要があります。
肉盛り溶接に向かない
母材溶接が基本となるレーザ溶接は、あまり肉盛り溶接に向いていません。溶接点と溶接棒、焦点を揃えるのは熟練の技術が必要な上に、溶接棒を溶融させることでレーザ光のエネルギーが足りずに接合が十分におこなえない可能性もあるためです。レーザ溶接で肉盛溶接をおこなう場合、フィラー材を金属粉や溶接ワイヤで供給します。
レーザ溶接の種類
レーザ溶接に用いられるレーザ光は、気体あるいは固体を媒質にして発生させます。そのため、「気体レーザ」と「固体レーザ」で種類分けが可能です。気体レーザにはCO2を用いる「CO2レーザ」、固体レーザにはイットリウムやアルミウムの人工ガーネット構造に、希土類元素を添加して発振媒体にする「YAGレーザ」があります。
固体レーザには、光ファイバーからレーザ光を発振する「ファイバーレーザ」、YAGレーザの発展形である「ディスクレーザ」や「半導体レーザ」などもあり、レーザ溶接の種類ごとに波長や発振形態が異なります。また、アーク溶接とレーザ溶接を同時におこなう「ハイブリッド溶接)」もレーザ溶接の一種といえるでしょう。
CO2レーザ・YAGレーザ・ファイバーレーザの比較
レーザ溶接の種類の代表的なものとして、CO2レーザ、YAGレーザ、ファイバーレーザが挙げられます。ここでは、それぞれのレーザ溶接の特徴を説明します。
CO2レーザの特徴
CO2レーザはCO2(二酸化炭素)を発振媒体にします。波長は10.6μmですが、共振器ミラーによる波長選択を用いて9.6μmまで短くすることができます。出力形態は連続発振(CW)とパルス発振が選べ、高出力でもΦ0.6mm程度に集光できるのが特徴です。CO2レーザのミラーや集光レンズには、半導体のセレン化亜鉛(ZnSe)が使われます。自動車や造船、鉄鋼などの分野における溶接で、数kWから数十kWの高出力な連続発振レーザが使われています。
波長が10μm帯のレーザ光はファイバー素材である石英に吸収されるため、CO2レーザのレーザ発振器からファイバー伝送させることができません。したがって、発振器から加工位置までミラーを用いた空間伝送をおこなう必要があります。ファイバー伝送が使えないCO2レーザは、発振器からの距離が制限されて自動化しにくいのが欠点です。
YAGレーザの特徴
YAGはイットリウム(Yttrium)、アルミニウム(Aluminum)ガーネット(Garnet)の頭文字です。YAGレーザにはYAGにネオジム(Nd)を添加した「Nd:YAGレーザ」、エルビウム(Er)を添加した「Er:YAGレーザ」があります。
YAGレーザの波長は1.064μmと短く、ファイバー伝送時に伝送損失を抑えられるのが特徴です。YAGレーザの開発によってレーザ溶接の自動化やロボット化が実現できました。第1世代のYAGレーザは集光性やメンテナンス性に難がありましたが、現在では欠点が改良された第2世代のYAGレーザが普及しています。
ファイバーレーザの特徴
ファイバーレーザは高輝度・高出力の固体レーザです。ファイバーレーザの光ファイバーには高純度の石英ガラスを使い、イオン化したイッテルビウム(Yb3+)を添加します。これにより外部からの半導体レーザ照射によってレーザ発振を起こさせて、高出力のレーザ光を生み出すことが可能です。
ファイバーレーザの波長は短くビーム集光径を絞ることもできるため、エネルギー密度が非常に高いのが特徴です。アルミなどの高反射材に対しても、深い溶け込みが得られます。また、焦点の自動設定や非接触の高速溶接もできます。ファイバー伝送で取り回しが良く、ミラー調整やメンテナンスが不要であるというのもファイバーレーザの強みといえるでしょう。ファイバーレーザなら溶接工程の自動化およびロボット化も容易です。